平成16年11月19日(金)



夜F病院に寄る。
大丈夫だ、元気そう。

すぐに担当のTB先生から手術の詳細について説明を受けます。
以下の記載は私のノートを元に書き起こしたものであり、
多少間違いもあるかもしれません。

○全般事項
おそらく風邪のためだろうが、経口栄養の吸収が悪く、
量を減らしている。
熱は下がったので、この程度なら予定通り手術を行う。

今回行うのは、

1.中心静脈カテーテル挿入
2.胃ろう造設

である。

○詳細

1.中心静脈カテーテル挿入

高カロリーの輸液を体内に入れるには末梢の血管では血流量が不足し、
血管炎を起こしてしまう。
血流量が多い心臓の近くまでカテの先端を入れる。
(長期生命維持・成長させるためのエネルギーを液体として
 直接体内に入れるには、濃度を濃くしないと足りません。
 薄い輸液を大量に入れると、水分排泄が追いつきません。
 濃度を濃くするとそれだけ浸透圧も高くなり、
 すぐに血液で希釈されないと血管から水分を奪ってしまい、
 血管炎になってしまいます。)

通常頸の静脈(外頸静脈・内頸静脈)か、
大腿の静脈(大伏在静脈)から挿入する。
大人だと鎖骨下から内頸静脈に入れたり大伏在静脈から入れるが、
子供はルートの入れ替えが難しいし、
大腿の大伏在静脈はオムツで不衛生となるため好ましくない。
そのため今回は外頸静脈から挿入したい。

私のノートに色を塗ってみました。
下手ですね、すみません。


ルートは皮下埋め込み式のルートを用いる。
ルートの出口を皮下に這わせ、
出口近くにカフという器具を入れることで皮膚に癒着させる。

手順としては、
外頸右側、頸の根元よりやや上を1〜2cm切開する。
外頸静脈より中心静脈カテーテルを挿入し、心臓近くまで到達させる。
この作業はレントゲンにより正確に位置を決める。

次にルートの出口側は皮下を這わせ、右乳頭上あたりに出す。
出口も1〜2cm切開し、カフを挿入する。



この皮下埋め込み式の利点として、

@物理的に引き抜きに強い(抜けにくい)
Aルートの外側を伝って体内に雑菌が進入するのをかなり防ぐことができる

欠点としては
@入れ替え等に切開する必要がある
ことである。

このRisk&Benefitを考慮し、皮下式を選択した。

出口はドレーンフィクスというIVHを固定する専用テープで1週間完全に密閉・保護する。
傷口が汚れないように、また貼布面に皮膚保護剤になっている。
またこのテープにはウレタンのこぶがついており、
ルートを噛ませ固定することができる。
2週間はこのドレーンフィクスを貼り、入浴もなし。

挿入するカテーテルの太さは一般に
 2.7Fr(フレンチ)
 4.2Fr
 6.6Fr
の3種類である。
今回は4.2Frの挿入を狙う。

懸念としては、この子はこれまで長期にIVHを挿入しており、
(ルートが抜けかかり)先端が心臓近くから離れていた時期がある可能性も考えられる。
その場合、その動脈が血管炎を起こし、狭窄したり閉塞してしまう。
(新生児の場合太い静脈が閉塞しても、代償する血管が新生され、
 症状がほとんど現れないことが多い)
その場合、大腿大伏在静脈から入れざるを得ない。

大伏在静脈が詰まると肝への血流が妨げられ症状が現れるので、
今は下(大伏在静脈)は生きている。

右の外頸静脈をトライし、駄目なら左の外頸静脈、
それでも入らなければ大伏在静脈から入れる事になる。

2.胃ろう

胃に直接管を入れ、栄養剤を入れることを可能にする。
鼻からの管と役割は同じであるが、
鼻からだと不快感もありまた行動も制限される。

短小腸の場合、物理的に吸収能力が低い。
(吸収する小腸の表面積が少ないこと・通過時間が短くなること)

一般にIVHの離脱条件は、残存小腸の長さにして、

回盲弁(小腸と大腸の境にある弁)があれば20cm、
       〃       なければ30〜40cm

である。
回盲弁により小腸通過時間が長くなるし、
なにより回盲弁付近の栄養吸収能が非常に高い。
この子の場合(吸収に直接寄与しない十二指腸を除くと)
残存小腸が17cmであり、また回盲弁切除されているので、
IVH離脱に向け、特殊な管理を行う。

(1)残存小腸の吸収能力UP

通常新生児の小腸は70〜80cm。
成人は600cm前後(約8倍)にまで伸張する。
短小腸児の場合、小腸が太くはなっても長さは2〜3倍にしかならない。
そのため小腸表面の絨毛を成長させて表面積を大きくしたりするしかない。
いろいろ(吸収能をあげるための)管理が大切である。

1)水溶性ファイバー(食物繊維)
絨毛を伸ばすことはできない。通過時間を延長させることができる。
水溶性ファイバーが大腸に入ると細菌の働きにより短鎖脂肪酸になり、大腸粘膜のエネルギー基質になる。
大腸が発達し、下痢をしにくくなる。

2)非水溶性ファイバー
絨毛の長さが長くなる。
ただし多すぎると便量が多くなり、水分も排出されてしまう。
また早く出るので通過時間が短くなりすぎる。

今は必要なファイバーの1/5程度しか摂取していない。
割合と特徴によりコントロールして行かなくてはならない。

3)増殖因子
 EGF(上皮増殖因子)
 HGF(〃 肝臓で見つかった成長因子)
 ラクトフェリン(母乳に大量に入っている。唾液中にもある)

4)サプリメント
 ビフィーナ(ビフィズス活性菌)
 回盲部による胆汁の回収が不十分になり、
 腸内細菌そうのバランスが崩れ、下痢になるのを防ぐ。

EGFとHGFは研究段階であり、副作用もわかっていない。
ラクトフェリンは牛乳にも入っているが、
牛乳には乳糖多く含まれており、下痢を起こしやすい。
乳児があれだけミルクを飲めるのも、
小腸で乳糖分解酵素が作られているからである。
この子にミルクを飲ませるのはリスクが多すぎる。

またラクトフェリン製剤の殆どがサプリメントとして他の成分が混入されている。
(ラクトフェリン単剤として発売されていない)
そのため入手が難しい。


(5)栄養剤の与え方の工夫
小腸に効率よく吸収させるには、時間をかけゆっくり流すのが良い。
今は8回/日、口から与えている。
胃ろうによって睡眠中に少しずつ流すことができる。

(2)胃ろう

24時間胃管(胃カテ=マーゲンチューブ)から栄養剤を入れるのは物理的に危険である。
また24時間連続して栄養剤を与えると空腹にならず、
食欲を低下させる。
なにより行動が大きく制限される。

そこで夜間寝ている間に時間をかけて栄養剤を入れる。
7〜8時間かけて少しずつ落とす。

胃に穴をあけると2〜3週間でロウ硬化する。
その穴に風船式のバルーンを入れる。
ミッキーのガストロストミーキットを用いる。
サイズが2mm単位で好都合である。

問題は依然開腹手術を何度もやっており、
程度はわからないが癒着していることが考えられる。
このままでは胃の全体像がわからないので、開腹手術を行う。
切開は肝臓の上、みぞおち下から行う。
癒着剥離の範囲が広ければ、以前の傷に沿い、横に広げる。




確実に胃と腹壁は癒着しているだろう。
腸回転異常症の場合、腸が腹くう内で移動するため、
胃と腹壁に挟まって癒着している可能性もある。
回盲部を切除しているし、以前のX線像から丁度胃の近くにその部位が来ている。
ここはまず間違いなく癒着を起こしていると考えている。

剥離の程度により回復までに時間が異なる。
最大に剥がして・・・1ヶ月ほど。
しかし今回はそこまで広範囲に癒着しているとは考えていない。

胃ろうをいつまで必要とするかわからないが、
一生使えるものを作るつもりで、将来悪影響を及ぼしかねない癒着を剥離させる。
それに腸はもう1mmたりとも傷をつけたくない。
1cmを10〜20分かけて剥離するくらい、
必要なら椅子に座ってでもじっくり慎重に行う。

手術はIVH挿入に0.5hr、胃ろう造設と剥離に2.5hr、
前後の麻酔で計3.5hrの予定である。
癒着の程度が酷ければそれだけ手術時間も伸びるが、
たとえ時間がかかっても、
それだけ丁寧に作業していると思って心配しないで欲しい。

癒着の程度により(剥離による)出血の危険性は高まる。
この子くらいの体重で血液は500〜600cc。150〜200cc出ると危険である。
できれば輸血は行いたくないが、必要なら輸血を行う。
出血程度が軽ければ、輸血の代わりにアルブミンを入れる。
アルブミンは血管中の水分を保ち、尿量を確保する。

術後に関し・・・

鼻からのチューブは術後1週間程度で抜去する。
腸は開腹しただけで動きを止めてしまう。(最低24hr)
剥離によるダメージに比例し、動かない時間も長くなる。

この疾患はとにかく下痢が大敵である。
そのためまず風邪をひかないことである。
できれば隔離したいくらいである。
集団生活はさせたくない。
せめて体に余裕ができるまでは・・・

その後もいろいろお話をしましたが・・・
この子に関することから外れた話題も多く(私が余計な質問をしたため)、
割愛します。
先生、長時間お時間を頂きありがとうございました。

あとは!
手術を待つだけ!風邪を治せよ!!

今日も遅くなりました。
看護師さんに息子を託し、帰途につきました。

迫り来る手術を知らぬ、我が息子。
その手でも・・・人を呼ぶか・・・。