Sは生まれて間もなく小腸が壊死し、切除せざるを得なくなりました。
栄養を吸収する器官である小腸が短くなった事による栄養吸収障害(短腸症候群)となり、
今も日々闘っています。

でも、そもそもなぜ小腸が壊死してしまったのでしょうか。
生まれた時はなんともなかった小腸に、何が起こったのでしょうか。
それを理解するためには、消化管の発生と構造を少し学ばなければなりません。

○腸回転

人間の消化管はお腹の中を折れ曲がって効率よく収まっています。
しかし胎児初期は1本のまっすぐな管なのです。
発生・成長段階で回転することにより、正常な消化管の位置に配置されるのです。

1.最初は1本のまっすぐな管なのです。
2.続く成長の段階で、反時計回りに90度回転します。(妊娠から1ヶ月目頃)
3.次の段階で更に回転が進みます。(妊娠から2ヶ月目頃)
4.反時計回りに180度回転(合計270度)したところで固定されます。(妊娠から3ヶ月目頃)





○腸回転異常

しかしながらこの回転が何らかの理由で途中で止まってしまう場合があります。
これが腸回転異常です。5000〜7000人に1人ともいわれています。
そう、まずSはこの腸回転異常だったのです。

なぜこの回転が途中で止まってしまうのか、その原因は解明されていないようです。


胎児の腸の成長ですが、
一時期身体(器)の成長が消化管の成長に追いつかないため、
発生の途中で消化管は一度身体の外に飛びだし(!)、
身体が成長するに従い再び収納される(!!)、
という複雑な過程を経るそうです。
その脱出と帰還の際に回転が起こるそうです。

人間の体のつくりは複雑で、何も障害がない方が奇跡とも思えます。

☆やってみよう!腸の回転

左手でヒモをつまみ上げる。(90度回転)
腸が体の外に出た時の様子です。

「2」の状態です。
掌を見るように手を回転させます。
(+180度回転)

ほら、「4」の消化管の位置そっくりでしょ?

わからなければ、写真の上にカーソルを!




○中腸軸捻転

小腸の回転が途中で止まってしまうと小腸は固定されず、丁度頂点でつり下げられた形になります。
でも腸回転異常は他に狭窄など障害はなければ、
位置が正常ではないだけです。
だから生まれてしばらくの間は症状がなかったのですね。

5.腸の回転が途中で終わってしまうと、小腸はその位置でつり下げられた形になります。



しかし小腸の固定は甘く比較的自由に動けてしまいますので、
口に食べ物が入り消化管の蠕動運動が始まると、1点でつり下げられた小腸は次第によじれていきます。

6.蠕動運動によりよじれてしまいます。



そしてよじれた小腸にはタオルを絞った時のように血が通わず、
時間の経過とともに組織は死んでしまうのです。
これが中腸軸捻転です。
回転異常により起こる障害を総じて腸回転異常症といいますが、
中腸軸捻転は腸回転異常症の一つです。

腸回転異常の場合、約80%が生後1か月以内に中腸軸捻転になるそうです。
Sもそうでした。
小腸の回転が途中で止まっていたため、
中腸軸捻転を起こし、小腸が壊死してしまったのです。

小腸の捻れ具合、処置までの時間等によって、切除しなくてはならない範囲は異なります。

Sは生まれるずっと前から宿命を背負っていたのです。

平成19年3月4日改定
平成19年3月3日改定
平成19年3月2日作成