平成15年10月14日(火) その4
S病院に到着し、NICUに向かいます。
昨晩遅い手術のあと、特例的にジジババがNICUの息子に面会させて頂きましたが、今日は父親の私がいます。
私一人でNICUに入ります。
入り口で手を消毒剤で念入りに洗い、
青の白衣?を着ます。
中で再度手を洗浄します。
当然、腕時計など外さねばなりませんし、
携帯も電源OFFにしなければなりません。
中はあちこちで警報機?やら測定装置が鳴っています。
非常に騒がしく、それも集中治療室だからでしょう。
変わり果てた息子がそこにいました。
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ナースさんが撮影してくださった写真です。
人工呼吸器、何本ものカテーテル、ドレーン。
そこには何種類もの薬剤が本のわずかずつ血中に送り込まれています。
さらに心電図のような測定機も数多くつながれていました。
これだけぶら下げて、やっと息子の命は維持されているのです。
逆流しこみ上げたのでしょうか、唇にドス黒い瘡蓋様の血がこびりついています。
それにしても・・・肌の色が悪い。
運ばれてきた時はもっと悪かったそうです。
「昨日の手術の麻酔がまだ効いています。たぶん次の手術が終わるまで覚めないでしょう。」
とはナースさん。
外科のN先生とお会いし、一通りお礼を述べた後、別室で説明を受けます。
・小腸が固定されておらず、グルグルに絡まっていた。
・血行が止まり、色もだいぶ悪い。
よりを解いてしばし観察してみたが、すぐには色は戻らなかった。
残念だが広範囲に切除しなくてはならないだろう。
・新生児は回復力が強く、しばらくそのままにしておくと、死にかけていた組織も回復してくることがある。
ただ、あまり長時間放置すると、死んだ部位が腐り、全身に毒素が回る。
そうなっては取り返しがつかないので、その前に手術する。
私 「それでどれくらい残せそうなんですか?」
N先生「・・・何とも言えません。」
私 「一度の手術で長さを決められないほど良い部分が短いって事ですか?」
N先生「そういう事です。」
私 「良い部分はどれくらいなんですか?」
N先生「新生児の小腸は70〜80cmです。今悪いところを切り取ると、残りは4cmになります。」
私 「・・・それはどう言うことなんですか?」
N先生「小腸は栄養を吸収する大切な臓器です。他のどんな臓器でも代用することはできません。
しかし短すぎると食物が通過するときに、逆に脱水されてしまいます。」
私 「・・・それって一生口から物を食べることができないってことですか?」
N先生「・・・そうです。」
私は目の前が真っ暗になり、卒倒しそうになるのを必死でこらえました。
生まれたばかりの我が子が数度にわたり腹を切り開かれ、しかも一生食べることができないなんて!
きっと何かの間違いに違いない。
しかし部屋の何処を見ても「今」は現実であり、目の前のN先生や、
説明の記録を取るナースさんが消えて無くなることはありませんでした。
説明の記録と次の手術の同意書に拇印を押し、最後にもう一度息子の顔を見、NICUに戻りました。
意識無く寝ている小さな我が子に何の言葉をかけたか、全く覚えていません。
「まだ終わった(決まった)わけじゃない、まだ闘ってるんだ」
不思議と涙は出ませんでした。
すると奇跡が起きました。
なんと麻酔が効いているはずの息子が、目を開けたのです。
「頑張っているからね」
そう言いたいのでしょうか。
「ほら!目を開けましたよ!!」
私はまるで発狂したかのように、近くのナースさんに叫びました。
「生」を認めてもらいたかったのかもしれません。
だれかに「これなら大丈夫」と言って頂きたかったのかもしれません。
またすうっと目を閉じていきました。
その5に続く。